anemone

LIKE IT HOT IN WINTER
starring anemone

 宝石のような、それでいて掴むと砂のようにサラサラになって手からこぼれてしまうかのような……。アネモネ、初のアルバム『クラシックス.』は刹那くも狂おしい煌めきを解き放つ極上の音絵巻となった。
 作詞・作曲はもちろんトラック・メイキングまで手掛けるミュージック・メイカーである彼女。フォークトロニカ風な繊細で耳障りの良い電子音を、日本語による美しい言葉によって優しく紡いでいく。彼女の目線によって描かれる日常の風景ははんなりと痛い。しかしその行間に溢れる思いの強さ、事象を受け取る感受性の強さには驚かされる。思いがサウンドに伝わって広がるその絶妙なる響き、ヴォーカルが魅せる儚き美しさに注目をして欲しい!!! 

電子音だけど、暖かい感じとか。ナチュラルな感じ。それは柔らかいようでいて、強さとか毒っぽさとか、いろんなものが混ざってると思うんです。

barf レコーディングと撮影が同時進行で大変だったと思うんですが、まずは撮影のお話から訊いてみましょっか。
アネモネ 久しぶりにあんなに波打ち際に行きました。海もすごく気持ちよくて日ざしも結構あったんですけど。やっぱり自然のものと触れあうっていいですよね。スタジオにいるのとエネルギーが違うっていうか。
barf 日常、都会に住んでると自然から隔離されるから余計エネルギー感じますよね。でもデビュー・アルバムの『クラシックス.』では自然と共存出来るような優しい電子音を用いてメロウにサウンドを構築されてますよね。どんなアルバムになりましたか?
アネモネ アルバムは今まで作ってきた曲のなかで、核となる曲を選びました。「8月のオレンジ」や「心の傍に」って曲で強くあらわれてると思うんだけど、イマジネーションって言うか、想像力みたいな。それは見方を変えるって意味の想像力なんですが、そういうのが大事かなって。根本的に流れてるものはそういうもので。音の方としては、雰囲気というか、バランスとかそういうところも楽しんで欲しいなって。例えば匂いとか世界観とか……。今回は初めてのフル・アルバムなので、よりいっそう雰囲気を伝えていけたらって思ってるんです。
barf その雰囲気ってやつを詳しく訊いてみたいんですが。
アネモネ 電子音だけど、暖かい感じとか。ナチュラルな感じ。それは柔らかいようでいて、強さとか毒っぽさとか、いろんなものが混ざってると思うんです。……夜明けの海みたいな。空気が冷たいんだけど、太陽は出て来るみたいな。そんな雰囲気ですね。
barf 個人的に、すごい好きなのが「8月のオレンジ」って曲なんです。歌詞とか切ないけれど、メロディの染み入る感じとかが好きなんです。<欲しいものはとくにない 嫌いなものもそうはない〜>のフレーズが気になりましたね。
アネモネ この曲は「愛のままに」っていうシングルにもなった曲の前段階の曲だったんです。今、思えばなんですけどね。自分が思うアネモネっぽいものって、メロウで、マイナーな感じで、ふわーっとしてる。そんな切なさとかかなって思って。〈名前〉ってフレーズで歌が始まってるのは、そこにアイデンティティがあるって思ったからなんです。あと、愛というものを何とか描いてみようと頑張った曲でもあります。さっき気にしてくれたフレーズの所は、いろいろ恋をして、そう言われたわけじゃないんだけど、そんなことを思ってるんだなって感じたことがあって。すごい、切ないっていうか、寂しいなって思って……。最終的には愛されたし、愛されているって結論に私はこの作品ではいきついたんですが。「不運だったんだ」っていう最後の下りも、悲しいんじゃなくて。運が悪かったぐらいのことで、それは不幸だったわけではなくて、そんなに気にするなよみたいな意味合いなんです。気づけないのは、運が悪かったって言いたかったんです。幸せになりたいっていうのはすごく大事だし。何がこのせつなさを産むのかなって考えた時に、愛を感じるっていう想像力が大切だなって思ったんです。
barf 歌詞で僕っていう言葉をたまに使っていますよね?
アネモネ 相手に言わせたい言葉は出来る限り僕とかで言わせるようにしていますね。
barf 曲の作り方が物語的ですよね。
アネモネ 例えば小さい頃よんだ絵本とかも、物語で読むから友達は大事だとか、伝えたいことがわかるじゃないですか?。でも、友達は大切にしなさいってストレートに言われただけじゃ、何でどうして?って思っちゃうんですよ。だから物語的な伝え方っていうのは、シンプルでいいのかなと思ってます。
barf アネモネの楽曲って、メッセージ性も実は強いですよね。
アネモネ そうですね。うん、なんかまぁ、自分が思うことっていうのは、伝えるべきかなと思って。雰囲気とか、ニュアンスとかも大事だけど、何か自分が思う一つのことでいいんですけど、伝えたいなって思うんです。でも、そうは言いつつも物語にしていくと、大きな絵になってしまうんですね。なんていうか、もっとこじんまりして、小さい絵で、家に飾るとか、そんな感覚の小さい作品っていうのも素敵だなと思うんです。「よあけ」って曲はそんな曲なんですね。

上手く言葉で言えないこととか、言った後でしまったなーってことが多くて……。そういったことが私の場合は音楽が一番ブレがなく出来るんです

barf アルバム作ってる間で、直接的じゃないにしてもインスピレーションを受けた音楽ってあります?
アネモネ そうですね。ミニ・アルバムの『プライマリー・ポートレート』はウエットな作りだと思うんです。今回のはもうちょっとドライっていうか。拙いフレーズとか、そういう生々しさっていう感覚を取り入れてるんです。それは何を聴いたりしてっていうわけじゃないんですけど……、たまたまクレッシェンドっていう、自分で楽器を作って生音でやってるような人がいて。エレクトロニカぽっいんです。良かったですよ。あと、16日にム−ムに行ったんです。すごい緩くて良かったです。なんか、メンバーがちょこちょこって出て来て、みんなで変わるがわるギター弾いたり、ピアニカ吹いていたんです。下手なんですけど、雰囲気が良くて。そんな雰囲気にやられましたねぇ。
barf ム−ム良いですよねぇ。行きたかったなぁ……。そういえばそもそもどうしてアネモネは音楽を使って表現活動をするようになったんですか?
アネモネ 性格的に人と仲良くなるのに時間がかかる人だったんですよ。上手く言葉で言えないこととか、言った後でしまったなーってことが多くて……。そういったことが私の場合は音楽が一番ブレがなく出来るんです。
barf 今回のバァフはタランティーノが表紙なんですがですが、もうひとつ特集として『GAILS LIKE IT HOT IN WINTER』ってタイトルでファッション特集をやろうってなったんです。アネモネはこれまで〈WR〉とのコラボなどファッション的な動きがありましたけど、最近ファッションで面白いなって思うことはあります? 
アネモネ 去年から、ミュージック・ヴィデオでスズキタカユキさんの服を着ているんですが、今回は監督さんも違うし、違う方向で、行こうって思っていたんですけど、結局スズキタカユキさんの服でした。なんか着るとアネモネになるっていうか、合うんですよ。今回、スタイリングをやっていただいた望月さんもスズキさんのことを知ってるらしくて、なんか繋がる感じがしましたね。
barf 既にアネモネの一つの要素になってますね。
アネモネ オーガニックな感じなんだけど、ボロボロだったりすごく凝ってるんです。私の音楽にすごい近い服かなと思って。今回の撮影で着た服はビョークの服をデザインしている方の服なんです。あの有名なスワンを作ったっていう。でも思ったより和風っていうか、浴衣柄にも見えなくもないっていう。すごく素敵な感じでした。あと、今回ジャケットのアートワークも素敵なんです! 音楽にすごく合ってるって思いました。
BARF 繊細なんだけど強さが絶妙に出ていて素晴らしいですよね。ハッとさせられる。
アネモネ いいですよねぇ。あとですね、今後はライヴをもっとやっていきたいなって思ってます。しかもシンプルなセットでやりたい。だから、フォークトロニカっぽいものを観せるライヴにしたいんです。ぜひ遊びに来て下さいね!!! 
(9月18日/渋谷にて)

『クラシックス.』
anemone
11月5日発売
〈Kitty Mercury/ユニバーサルミュージック
www.anemonet.com/